■ 研究プロジェクトの最前線 地下水の水質は大丈夫?半導体関連企業が集積する熊本(熊本県)
ニュースのそもそもをひも解く「県民のギモン」。今回のテーマは「汲み上げた水のその先は?」です。TSMCの進出をきっかけに、熊本県内では地下水への関心が高まっています。中でも水質の調査について気になっている方も多いのではないでしょうか。どのように行われているのか、取材しました。
2024年12月、菊陽町の工場で量産を開始した"半導体業界の巨人"、台湾のTSMC。半導体の受託生産で世界1位のシェアを誇ります。“巨人”の進出をきっかけに、熊本では半導体関連企業の集積が進んでいます。
その背景にあるのが、豊富な地下水です。半導体の製造に必要な大量の水が安定して供給できるため、企業にとって魅力的な土地となっているのです。しかし、県民からは“懸念”も。
■熊本県立大学 黒田忠広理事長(2024年10月)
「県民の皆さまから、そんなに地下水を使っても大丈夫かと尋ねられます。その答えは、“サイエンスが示すべき”であります」
そこで動き出した企業や大学。水資源の保全とともに水質に変化がないか分析などを行うため、共同研究でのプロジェクトをスタートしました。
プロジェクトのメンバー、熊本県立大学の石橋康弘教授です。
■熊本県立大学環境共生学部 石橋康弘教授
「資源循環科学という研究室です。排水処理や廃棄物処理が専門です」
水質調査は、どのように行っているのでしょうか。見せてもらったのは、石橋教授の研究室が手がける井戸から採取した地下水の水質調査です。
(石橋康弘教授)
「ポンプを使って濃縮させるためカートリッジを通す装置です」
地下水にわずかに含まれる物質を調べるため、まず、液体を濃縮します。
次に使用するのが「液体クロマトグラフ質量分析装置」です。水の成分を分離させて分析することができます。
(石橋康弘教授)
「物質がどれだけ検出されたか、高さでわかるようになっています」
調査で得られた結果は、どのように評価するのでしょうか。指標の一つとなっているのが、国が定める環境基準です。水質を一定レベルに保つために設定されています。石橋教授は、環境基準と比較しながら数値を慎重に評価しているといいます。
■熊本県立大学環境共生学部 石橋康弘教授
「(国が定める)水質環境基準をオーバーしてしまうと、環境に悪影響を及ぼすと思われる方が多いと思いますが、水質環境基準というのは、こうある方が望ましいという基準です。それを逸脱したからといって、問題がすぐに出てくるというものではありません」
また、石橋教授は、これまでに?基準が定められていない”物質の存在にも注目しています。
■熊本県立大学環境共生学部 石橋康弘教授
「新しい物質は処理技術が難しい、確立されていないところがありますので、大学が処理技術の確立などそういうところで貢献できるのではないか」
特に力を入れているのが、熊本をはじめ国内の各地で検出されている有機フッ素化合物の調査や処理技術の研究です。1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物。代表的な物質のPFOSやPFOAは、半導体の部品や空港などで使用される泡消火剤、フッ素樹脂加工のフライパンなどに使用されていました。
いずれも発がん作用など様々な病気へのリスクが高まるおそれがあるとされ、現在は多くの国で製造・使用が禁止されています。また「永遠の化学物質」とも呼ばれ、自然界で分解されにくく長期間残留することから、取り除くための研究が今、求められているのです。
■熊本県立大学環境共生学部 石橋康弘教授
「研究した結果は良くも悪くも公表して、安心できるようなデータを示せればいいと思いますし、もしもこういうところが危ないよというところがあれば、警鐘を鳴らすということができるかと思います。そこが熊本県立大学に課せられた使命だと思っています」
【スタジオ】
(緒方太郎キャスター)
地下水の水質調査は、今回のプロジェクトのほかに熊本県も独自の調査を行っていて、3月に結果を公表しました。それがこちらです。
熊本県が半導体関連企業からの排水が流れる河川などを調べたところ、有機フッ素化合物の一種、PFBS・PFBAの濃度が稼働前よりも上がったことがわかりました。
これらは国内では規制外の物質だということことですが、調査を行った専門家によりますと、現段階では「科学的には安全なレベル」だとしています。
(永島由菜キャスター)
これまでに基準がないものに対し、どのように対応するか、これから行政や研究機関がともに考えていくことになるわけですよね。
(緒方太郎キャスター)
このように「大丈夫なのか?」と県民が疑問をもつことが研究の後押しにもなりますし、より安全暮らしを守ることにつながると思います。
(04/24 19:24 熊本県民テレビ)
・TOP
Copyright(C)NNN(Nippon News Network)