■【特集】秋サケ不漁で広がる「養殖サーモン」 官民で稚魚確保に注力(岩手県)
秋サケの不漁を受けて、岩手県内でも養殖サーモンの水揚げ量が年々増えています。その中で生産を安定させるための卵や稚魚の確保が課題となっていて、県や水産会社は卵の段階から育てることにも力を注ぎ始めています。
■盛岡市の回転寿司店「清次郎」フェザン店
お寿司やお刺し身などで子供から大人まで親しまれるサーモン。このすし店では主に夏から秋にかけ、数種類の県産サーモンを取り扱っています。
黒沢司店長
「(1日に出るのは)多いときで200貫前後出ます」「活締めで出荷されているので、非常に身質もプリっとしてて、ほどよく脂も乗っていて、癖がなくてうまみが強いのが特徴です」
このお店では、10年ほど前に県産サーモンの取り扱いを始めました。当初は1種類のみでしたが、ここ数年で沿岸地域にブランドサーモンが増えてきたことで、季節ごとに使い分けるようになりました。この時期は、海でなく陸前高田市の陸上で養殖された「岩姫サーモン」を出しています。
定着しつつあるサーモン養殖。一体なぜ、急速に拡大しているのでしょうか。
かつて地元の水産業を支えた天然の秋サケは、いま不漁が続いています。1996年度に県内で7万3000トンあまりだった秋サケの水揚げは前年度、過去最低の117トンまで落ち込みました。記録的な不漁を受けて取り組みが広がるのが、ギンザケやトラウトサーモンなどのサーモン養殖です。沿岸各地でブランド化が進み、いまや10種類以上を数えます。今年度は過去最多の3344トンを水揚げしました。
■水産研究・教育機構
宮古市にある国の研究機関、水産研究・教育機構の今井智主任研究員です。およそ20年間、サケやマス類の研究を続けています。養殖サーモンの産地を地図にまとめると、全国54か所だった産地が、10年で2・8倍の152か所に増えていたことがわかりました。
会議室で説明する今井主任研究員
「岩手県は2015年ですと、内水面(陸上)2か箇所だったのが、内水面・海水面併せて12か所」
生産量が増える一方、今井さんはある懸念も抱いています。
今井さん
「卵から稚魚に数百グラムで育つ、海面のいけすに入れられる数百グラムまでに育つまでの間を飼育する場所が足りていないということですね」
■泉沢水産
卵や稚魚の確保に懸念が残るなか、釜石市の水産会社では自ら会社で卵から育てています。会社が遠野市に設けた養魚場では、サーモンの稚魚を飼育。この日は、釜石湾で養殖された「釜石はまゆりサクラマス」から卵を取り出しました。
メスのお腹を開いて卵を取り出し、オスの精子を混ぜると、受精卵が作られます。
那須野寛顕 総務部長
「一番最初がこれです。それで2回目、3回目、4回目・・・」「4匹の雌から大体8000粒の卵をとりました」
できあがった受精卵は、およそ2か月後にふ化し、屋内の養殖池で大切に育てられます。年々卵が生き残る割合が高まるなど、4年前から続けて来た成果が見え始めてきました。
那須野寛顕 総務部長
「自社で採卵することによって、安定して卵を確保できるというのが一番の強み」「大きいオスと大きいメスを選抜して掛け合わせることをやっていますので」「日本を代表するサーモンの魚種として、海外に輸出していけるような優良個体の作出をおこなっていくと言う目標として、頑張っているところです」
■県内水面水産技術センター
卵が手に入らなくなる事態に備え、県も新たな取り組みを始めています。
八幡平市の山あいにある県・内水面水産技術センターでは、豊富で良質なわき水を生かして、サクラマスとギンザケを飼育しています。
小林俊将首席専門研究員
「これがギンザケの親魚になります。ギンザケの親ですね。今年卵を取る、ギンザケの親になります」「3000ぐらい入ってる」「(卵を取るのは)11月になります」
県が運営するこの施設では、これまで川魚の稚魚や卵を生産してきましたが、2年ほど前からサーモンの受精卵を民間企業に販売する取り組みを始めました。
小林俊将首席専門研究員
「豊富な水がないと作れないということがあってですね、将来的に種苗(卵や稚魚)の供給が不足するということが懸念されている」「県内で種苗を作れば当然漁業者さん、最終的に海面で養殖する漁業者さんには種苗の単価を抑えることも期待できます」
これまで県内漁業を支えてきた秋サケの危機。期待を集めるサーモンに、小林さんが見据える未来は・・・
小林さん
「将来的には400万粒ぐらいの海面(海上)養殖用の卵を供給できることを目指して、いまその体制づくりをやっております」
不漁を克服しようと、工夫がされるサーモン業界。卵の確保が難しくなれば関連企業の経済が停滞し、私たちの食事にも支障が出る可能性もあります。
養殖サーモンの安定的な生産へ。卵や稚魚の供給を重点的に強化するなど、業界全体の動向が注目されます。
県は今後、県でオリジナルのサクラマスを開発するなど、他県との差別化を図りたいと考えています。記録的な不漁への打開策となるか、今後の展開に期待しましょう。
以上特集でした。
(10/21 18:38 テレビ岩手)
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