■【戦後80年】捕虜収容所のメリークリスマスBフックさんからの手紙 岩手・釜石市(岩手県)
戦後80年の特集です。かつて釜石市にあった捕虜収容所について、4回のシリーズでお届けしています。3回目は、戦後、戦犯とされた元捕虜収容所の所長を苦しみから救った「天上からの福音」のエピソードです。
釜石を度々訪れている「ニューズウィーク日本版」の記者・小暮聡子さん。小暮さんの亡き祖父、稲木誠さんは、釜石にあった戦争捕虜収容所の元所長で、戦後はBC級戦犯になりました。
戦後30年にあたる1975年。戦犯にされたことによる心の苦しみから逃れられなかった稲木さんを救う、1通の手紙が届きました。釜石市長宛に届いたオランダ人元捕虜のヨハン・フレデリック・ファン・デル・フックさんからの手紙です。
それには、こう綴られていました。
「収容所での取り扱いは良く、重労働を強いられることはありませんでした。釜石の市民の方々は、私たちと話をすることはできませんでしたが、私たちに非常に親切にしてくれました」
これを知った稲木さんは、とても喜びました。小暮さんが稲木さんの手記やフックさんからの手紙などを形にした著書「降伏の時」では、このように語っています。
小暮さん「天上からの福音のようにありがたいニュースだったとかって書いてるんですけど、やっぱり自分としては、釜石収容所は、取り扱いはよくというか、全力を尽くしたというふうに思っていたけれども、ずっとそれが、祖父の言葉でいうと、真実が覆われたまま数十年が過ぎていたみたいな書き方をしていて、それを初めて捕虜の方が証言してくれたっていう気持ちだったんだと思うんです。本当にフックさんの手紙は、祖父の30年間の気持ちを救ってくれたと思いますし、私としてもすごいありがたいなと思っています」
その後、稲木さんとフックさんは、手紙で親交を深めます。フックさんは、1943年の11月から終戦後引き揚げるまでの間、釜石で過ごしたそうで、2人は当時を振り返ったり、近況を伝え合ったりしました。「降伏の時」には、こんな印象的な出来事を振り返ったやり取りが書かれています。「海水浴!それは私の釜石勤務中の最も楽しい思い出だった。毎日製鉄所構内で働いている彼らにとっては、久しぶりの自然の広大な眺めだった。彼らは声を上げて笑い、こどものように波とたわむれた。5メートルの高いところから、見事なフォームでダイビングする水兵もいた。帰途の彼らの足どりは軽かった。口笛でマーチの合唱がわいた」
クリスマスのエピソードも。
「送られてきた写真は、まさしく釜石収容所内庭に全員が集まって撮影したものだった。このクリスマスツリーについても思い出があった。飾りの材料は栗山兵長が東京へ帰省した際に買い求めて来て、俘虜たちに与えたのだった。帰省は彼の母が死亡し、その葬式のためだった。(中略)クリスマスツリーは殺風景な収容棟の中に飾られたが、記念撮影のために戸外に持ち出された。皆の顔に微笑が浮かび、所内の穏やかな空気がうかがわれるのはうれしい。これが私たちの管理した俘虜収容所だった。」
フックさんがくれたクリスマスの写真の裏には、思いがこもったメッセージが書かれていました。旧知の友人のように2人の手紙のやり取りは、その後12年間続きました。
小暮さん「戦時中は祖父は収容所の所長で、あのフックさんは捕虜で、いびつな関係性だったと思うんですけど、戦争が終わったら、もう本当に二人が対等にというか、同じ一人の人間同士として交流し、お友達になり、お互いの家族のことを思いやって、『孫が生まれたんだね、おめでとう』みたいなことを言い合ったりとか、『奥さん、健康大丈夫』とか、本当にお友達になっていくのが伝わってくるので、戦争がなければ本当に元からそういう関係性が築けるような人と人なんだろうなというふうに思いました」
釜石を去る日のことをフックさんは、こう手紙に書いています。
「わたくしたちが釜石に別れを告げた時は非常にうれしかったのです。しかし、わたしたちがアメリカの引き揚げ艦の甲板に立った時、埠頭にあなたがただ1人、軍刀も持たずに立っている姿が見えました。その時は全く悲しく思いました。」
小暮さん「祖父としては、それをあの時にそんなふうに思ってくれる捕虜の方がいたんだっていうふうに思ったでしょうし、捕虜の方が引き上げていくときに所長に対して,悲しく思いましたっていうのは、やっぱりすごく思いやりにあふれ方なんだなって」
捕虜たちを思う稲木さんの誠意は、伝わっていたのではないでしょうか?
その後、小暮さんは、フックさんの息子・ポールさんと会うことができ、親しい交流を続けているそうです。
シリーズ最終回、4回目は、釜石を訪れた元捕虜の家族や思いを受け継ぐ高校生たちと出会います。
(12/24 18:40 テレビ岩手)
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