■【特集】ピアニスト小井土文哉さん 津波被害から修復「復活ピアノ」演奏に込めた思い (岩手県)
ピアニストとして国の内外で活躍する小井土文哉さんが、生まれ育った釜石市の母校や教会で、津波の被害を受けた「復活ピアノ」を弾き観客を魅了しました。小井土さんが、演奏に込めた思いを取材しました。
釜石市出身のピアニスト、小井土文哉さん30歳。国内外のコンクールで優勝するなど高い実力を誇ります。
この日は、北上市で地元のオーケストラと共演しました。
小井土文哉さん
「自分が音楽を始めたきっかけになったのが震災だったり、盛岡で体験したことだったり」 「たくさんのことをいただいた、ここ岩手なのでそういう方々に演奏をお届けできるっていうのが、本当に幸せなことでした」
11月中旬。小井土さんは演奏会のため、古里・釜石市を訪れました。
小井土さん
「そこに公園で遊びに来ている人がよく買いにいく駄菓子屋さんがあって」 「震災後は完全に土台ごと流されてしまったんですけど」
小井土さんがピアノを始めたのは3歳の時。家には生まれた時からピアノがありました。めきめきと頭角を表した小井土さん。その後の運命を大きく変えたのは、卒業間近の中学3年で経験した震災でした。
学校からの帰り道、これまで感じたことのない、強い揺れにおそわれました。
高台から海に向かって小井土さん
「このいまある高台に走って避難してきたと」 「(津波が来たのは)本当に10分、15分後だったと思いますね。自分も波にまきこまれていた可能性が結構あったな、という風に」
その後、小井土さんは盛岡市の高校へ進学。被災地支援で駆けつけた演奏家の姿を見て、自分も音楽で力を与えたいとピアニストの道を決意しました。
この日、小井土さんが訪れたのは、母校・釜石中学校です。
憧れの先輩による特別授業。全校生徒280人が体育館に集まりました。
(演奏)
迫力の演奏に大きな拍手が送られました。
震災当時は、生徒たちと同じ中学生だった小井土さん。「生きる意義を考える大切さ」をテーマにメッセージを届けます。
講演で話す小井土さん
「震災を経験して、その前後で一番変わったっていうのは、明日もしかしたら自分はこの世にいないかもしれないということ」 「いま自分が生きていることは幸せなことで、すごく1日を大切に生きて欲しいというか」
生徒
「きれいな演奏で心に響きました」 「生き方の価値観について聞いたときも、震災経験したから考え方の違いがあるのかなって」
小井土さんが古里を訪れたもう一つの目的、それは、思い出の教会で演奏会を開くことです。
新生釜石教会の牧師、柳谷雄介さん。小井土さんとはおよそ20年の付き合いです。
今回、小井土さんが奏でるのは、津波の被害を受けた「復活ピアノ」。
震災当時、がれきに埋まった教会で泥にまみれてひっくり返っていました。
柳谷さん
「鍵盤を弾いてみたら音がなったんですね」「傷ついたんだけど立ち上がろうとしている私達の声を代弁しているかのような」 「復興の印にしていきたいと」
ピアノ職人の渡辺孝則さんは柳谷さんの思いを受けて、修復にあたりました。
渡辺さん
「津波の塩の塩害ってすごくて、これからとんでも仕事になるなっていう」渡辺「今までで一番テーマをもってやった仕事でもあったから、直して良かったなって思いました」
ピアノは無事修復を終え、釜石に到着。復活を記念した9年前のコンサートでは、柳谷さんの願いで小井土さんが演奏しました。
小井土さん
「何か地元に対してしたいって気持ちはずっとあったので」「演奏の機会をつくってくださったってことは、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
地元に音楽を届けるきっかけを作ってくれた復活ピアノ。
もうひとつ、小井土さんが思いを込めるものがあります。暗闇や波を表現したロシアを代表する作曲家、スクリャービンの暗闇や波を表現した音楽です。震災のつらい経験を癒やしてくれました。
小井土さん
「暗い中でなぜか暗い海をみたいと自分の中で思って」「震災当時、自然から感じたものみたいなところは、曲に対してのイメージをつくるときに、大きい経験になったので」「負の経験として捉えないために、プラスの形で生かしていくしかなかったというか」
あの日から15年を迎えようと する今、小井土さんは曲に思いを込めます。
小井土さん
「自分にとっても弔いというか」「ただ励ますだけとか、それだけではない表現、さみしさとかそういうのを共有することでも聞いてる方々に、心に対して訴えかけることはできるかな」
演奏会の夜 。アンコールを受け、思い出の作品を演奏します。
観客にむかって話す小井土さん
「最後にスクリャービン作品から、マズルカという曲を演奏させていただきます」
(小井土さん演奏)
小井土さん
「もちろん節目の年っていうのもあるので、今まで活動してきて、そして現在の位置を確認する意味でも、すごく意味があると思いますし」 「演奏だけではなく、いろんな言葉であったり活動で貢献していけたら」
これからも小井土さんの挑戦は続きます。
小井土さんは2026年2月にも釜石市内で演奏する機会を設ける予定ということです。今後の活躍が楽しみですね。
(12/09 18:43 テレビ岩手)
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