■運休相次ぐドクターヘリ 救急医療の現場に密着【徳島】(徳島県)
2025年度に入って運休が相次いでいる、県立中央病院を活動拠点とした関西広域連合のドクターヘリ。
その、ドクターヘリをめぐる救急医療の現場にカメラが密着しました。
一刻を争う救急医療の現場。
現場に駆けつけるのはフライトナースに、フライトドクター。
「手を動かしますよ」
「そのまままっすぐもう1回上げといてください」
救急医療の現場にカメラが密着しました。
まだ日がのぼらない早朝。
ドクターヘリチームの部屋に朝一番にやってきたのは、この日、ヘリに乗るフライトナースです。
ドクターヘリに載せる、医療器具や薬品を念入りにチェックしていきます。
(県立中央病院・丸岡綾 看護師)
「朝の準備がきちんとできていなかったら、現場に行って忘れ物があったらできないこともあるし、結構大事です」
屋上では、パイロットと整備士が機体のチェックを行います。
命を預かる現場、運航前にはこうした確認は欠かせません。
毎朝8時、ドクターヘリチームの朝礼。
「本日の天気ですが、西からの高気圧の張り出しによって晴れの天気です」
乗り込む人を支える、地上のスタッフたちもいます。
運航は、午前8時から日没まで続きます。
ここは、県立中央病院の救命救急センター。
朝のミーティングで、患者の情報を共有することから始まります。
センター長の、川下陽一郎医師。
センターの司令塔であり、この日のフライトドクターです。
即時の判断が必要な救急医療の現場において、医師や看護師に指示を出す役割を担っています。
午前9時前、交通事故の一報が入ってきました。
「頭から出血がある、レベルが低下してきた」
徳島市内の現場に向かって、医師が乗り込んだドクターカーが出発します。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「(患者が)20分から30分後に帰ってくると思うんです」
病院到着後の治療を考え、すぐさまCT検査を予約。
早速、現場に到着した医師から映像がリアルタイムで送られてきます。
「こんにちは」
(患者)
「痛い痛い」
(現場の医師)
「痛いね、これ」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「これだと直接連絡もらわなくても重症度が伝わってくる」
「これくらいの準備をすれば安全だろうというのが、ずっとリアルタイムに分かるんですよね」
(現場の医師)
「人対車、車が結構なスピードが出ててはね飛ばされた」
現場からあげられてくる情報をもとに、どんな治療につなげるか即時に判断し、指示を出していきます。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「放射線部に連絡入れてもらって、場所をどこにするか」
「谷口先生ドクターカー…」
カルテの作成や、治療を引き継ぐ医師への各所連絡。
そのうちにまた、救急患者の受け入れが舞い込み、大忙しです。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「ミッションスタートしてから17、8分くらいですけど、現場で救急外来の一番最初の初療室に入った時のほぼ同等の診療が成り立っているんですよ、17、8分というのは命運を分ける約20分なんですよね」
連絡を受けてから、ものの30分で病院に到着。
すぐに、CT室で検査ができました。
その後も、つぎつぎと救急患者が運ばれてきます。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「みんな怖いんですよ、目の前でどんどん状態が悪くなる人を前にして不安だし」
「そういう時こそコミュニケーションが大事で、そういう時こそ笑顔を使うし、相手に情報を伝えるというのはすごく重要で」
「それにはスキルがいる、日々のチーム作りとか、心理的安全性の確保が出来ている仲間たちというのが必要」
目まぐるしい現場。
隙を見て昼食をとります。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「需要と供給のバランスが崩れた時にどうするかというところが課題」
「なるべく役割を果たしたいと思うけど、比較的軽症だろうという方をたくさん受けると、最重症が受けられないことがあるんで…」
(電話が鳴る)
「救急、川下です」
休む暇はありません。
(運行管理担当者)
「はい、徳島県ドクターヘリホットラインです」
(院内アナウンス)
「フライトドクター、フライトナース頼みます」
(カメラマン)
「要請ですか?」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「要請ですね」
約30キロ離れた県西部から、ドクターヘリの要請がありました。
手足のまひや喋りづらさを訴える患者、脳梗塞の疑いがあります。
フライトドクターとフライトナース。
そして、パイロットと整備士の4人が乗り込み、要請を受け5分以内に出動します。
(運行管理担当者)
「現場は西に川を渡っての2キロです、出発時間5分で到着できるということです」
地上にいる運航管理担当者が消防と連絡をとり、救急車とどこで合流するかを決め、パイロットに指示を出していきます。
病院のヘリポートで下りることになりました。
移動中、患者の詳しい情報が入ってきます。
(バックアップ医師)
「12時ごろにトイレに行こうと思ったら、立ち上がれなかったということです」
「娘さんに連絡があって、娘さんが気づいて通報しています」
「今、左の上肢は明確にマヒがあって構音障害、ただ左の下肢は動き悪くないみたいです」
ヘリの時速は約200キロ、出発から12分で到着しました。
自宅から搬送してきた救急車と合流し、診察を行います。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「頭の痛み、頭痛はないですか?」
(県立中央病院・丸岡綾 看護師)
「不完全ですけど、グー・チョキ・パーもできて」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「呼吸回数24回です」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「到着するまでの間に大体ストーリーはついている、聞いた内容で多分こういうことが起こっている」
「こうだったとしたら日赤病院がいいし、こうだったとしたら中央病院がいいし」
「行ってみたらやっぱりこうだったか、思ったとおりだった、じゃあこうしようと組み立てる」
「そこから裏付けるための診察はするんですけどね」
一方、中央病院にはまたドクターヘリの要請が。
(バックアップ医師)
「ドクターヘリの要請ですか?分かりました。ちょっとお待ちください、はい聞こえています」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「LVを疑っていまして、症状も進行しつつあって大学さんに聞きます、ファースト」
(バックアップ医師)
「先生、ヘリ要請入っているんですけど、これ厳しい?」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「1回内容を聞いてもらって相談しましょうか」
那賀町からの要請。
患者の状況を詳しく聞くことにしました。
この間、整備士が患者をヘリに乗せていきます。
(看護師)
「ヘリコプター乗りましたよ」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「エンジンスタート大学で」
(パイロット)
「はい大学で」
診察中に入ってきた、那賀町からのヘリの要請が気になっていました。
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「那賀町はどうなりましたか?」
(バックアップ看護師)
「那賀町は今、保留しているんですけど」
(バックアップ医師)
「遠いからヘリ要請って感じみたいでした、陸路でお願いするように言っておきます」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「すごく距離のある遠い所での要請だったので、きょうはこっちが終わっても待ってもらえるならと思って」
「いや、現場で対応しますといって、それは任せましたけどね」
要請を受けてから49分で病院に戻ってきました。
県立中央病院に同じ症例の患者がいたため、川下医師は患者の分散を第一と考え、徳島大学病院に搬送することを決断しました。
県内のドクターヘリの要請は、1日平均1回から2回、一刻を争う救急医療の現場でそれぞれが思うことは。
(県立中央病院・丸岡綾 看護師)
「1人でヘリコプターに乗せられたらびっくりすると思うんですよ、だから横でいて苦しい思いを聞けるように、患者さんに寄り添うというのが一番大事かなと」
(パイロット・富松栄行さん)
「患者さんが助かったとか、医師や看護師が安心して飛べたということを聞くと嬉しく思います」
「ツーと言えばカーってあるじゃないですか、そういうのを構築しながら、いい任務達成を心がけようというのは」
「それぞれみなさん思っていることだと思う」
(県立中央病院・川下陽一郎 医師)
「僕たちの1つのアンサーは、プロフェッショナリズムを伝えることです」
「あなたたちに診てもらってよかったって思えるものを、ちゃんと提供できているかどうかで、やっぱりプロって問われると思うので」
この日、ドクターヘリはもう1件要請があり、山間部・上勝町で倒れた高齢男性を別の病院に搬送しました。
(森本アナウンサー)
「取材にあたった大江記者です」
(大江記者)
「よろしくお願いします」
(記者)
「改めてドクターヘリの現状ですが、今年に入り計画運休が続き、これまで合わせて4回、のべ24日間、運休しています」
(森本アナウンサー)
「その背景には、何があるのでしょうか?」
(記者)
「今回、直面している運休の理由は整備士不足です」
VTRにも出ていたように、ドクターヘリの運航にはパイロットや整備士、そして、地上から運航調整を行う運航管理担当者が関わります。
なかでも不足しているのが整備士で、機体のメンテナンスだけでなく、ヘリコプターに乗り込み、救急の支援も行うといった多方面の能力が必要とされいます。
実は、その多くを自衛隊を定年退職した人たちが担っていて、高齢化も進んでいます。
(森本アナウンサー)
「業界全体としての人手はどうなんでしょうか?」
(記者)
「また、コロナ禍以降7年間で、航空整備士を養成する専門学校の入学者数が半減するなど、業界全体でも人手不足と言えます」
(記者)
「こうした状況の中、運航を委託されているヒラタ学園では、18人いた整備士が3人退職し、現在15人となっています」
(記者)
「この体制で関西広域連合の8府県と東京と長崎、10か所を担当していて、そのために計画運休をして人員を回している状態です」
(森本アナウンサー)
「今後はどうなっていきますか?」
(記者)
「関西広域連合とヒラタ学園の契約は2026年3月末までで、2026年度以降は不透明な状態です」
「県は対策チームをつくり 運航会社を訪問し依頼するなどして、対応を模索しています」
(記者)
「取材した川下医師は、ドクターヘリが出動したケースの中でも、ドクターカーで対応できるケースもあり」
「ドクターカーの活用や各医療機関との連携が大切になってくる」
(記者)
「県内では運休期間中に近隣のドクターヘリなど、代替のヘリで対応した事案が3件ありました」
「ドクターヘリは災害時にも活動が期待されます」
「今後、安定した運航体制が整えられるのか、注目したいと思います」
(12/04 19:03 四国放送)
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