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「一本釣り」に込めた想い 鳴門の海で伝統漁法を受け継ぐ若き漁師【徳島】(徳島県)



江戸時代から続く伝統漁法、一本釣り。

その伝統を守ろうと、鳴門の海で奮闘する若者がいます。

その漁に密着、一本釣りに込めた想いに迫りました。

1本の釣り糸で魚を釣り上げる、一本釣り。

江戸時代、鳴門の堂浦の漁師によって高度な技術に発展したと言われる伝統の漁法です。

鳴門で一本釣りをする、西上大貴さん35歳です。

鳴門町漁協で一本釣りをする若手の漁師は、西上さん一人だけ。

周辺の漁協をみても、同世代の一本釣り漁師はいません。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「まあちょっと荒いんですけどね」
「全然こんなんだったら行けるんで、まあでも、濡れるかもしれんすよ」

漁師の一日は、日が昇る前から始まります。

時刻は午前5時30分。

暗闇の中、鳴門海峡を目指します。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「ハマチはこれぐらい風が吹いて海が混ざるような感じ、荒い方がいいですね」

漁場に到着しました。

さっそく仕掛けを入れていきます。

■一本釣りの仕掛け

釣り糸の長さはおよそ100メートル。

先端にはおもり、そして「疑似餌」を付けた針の仕掛けを付けて、海の中に落とします。

仕掛けを落としてしばらく待ち、かからなければ引き上げて、また落とす。

魚が食らいつくまで続けます。

この日は、開始から1時間半ほど釣れませんでしたが…。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「来たっすわ」

仕掛けに魚がくらいつきました。


(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「魚が釣れたら船を移動させて磯が上がってきたでしょ、磯から逃げるんですよ」
「磯から逃げたら潮を受けるし、移動しよることで水圧もかかるし、魚も暴れるので、めっちゃ重たくなるんですけれど」
「それせんと下がり(仕掛け)とられるんで」

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「あら」

1匹逃したものの、4匹の丸々と太ったハマチ。

釣った魚は生きたまま、船のいけすに入れます。

一本釣りの特長は、釣った魚の品質を高く維持できることです。

網を使った漁と違って、傷が少ない状態で魚を獲ることができます。

船を進めて潮の抵抗を受けながら、一気に魚を引き上げる一本釣り。

その手には日々の険しい漁の跡が残っていました。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「気づいたらめっちゃ痛いなあと思っていて、まっすぐならんようになっていて」
「滑らんように握りこんでおくのでこの形に固まっちゃって、握りしめすぎて一回折れとったんでしょうね」



高校を卒業後、京都で建築の専門学校に通った西上さん。

卒業後は地元に戻ってきました。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「おやじと一緒の仕掛けで、こっからあの距離で一緒の場所で釣りやるでしょ」
「おやじばんばん釣るんですけど僕、全然釣れんのですよ」
「なんなんこれと思って、なんで俺だけ食わんのだってほれがきっかけですかね」
「悔しいしおもろいし、なんで釣れんのだっていう」
「上手い人たち見て、(技を)盗んで話も聞いたりして段々釣れるようになっていったんですけど」

漁師として働くことを決めましたが、長年一本釣りをする父・政行さんや、祖父・光弘さんは複雑な気持ちでした。

(祖父・西上光弘さん)
「じいは反対したんよ。若いもんはどんどん辞めていくし、サラリーマンなるし、親もあんまりさせたくなかった」
「漁師になったん偉いわ、(大貴さんが)漁師しとらなんだら、わしらでも好きなように遊んどんや」
「(大貴さんが)行きよんで、ちっとでも頑張ったろかと思って、やっぱしいっきょる」

漁師になって15年。

今後について思うことがあります。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「息子とかがやりたいって言ったときに、俺は反対されたけれど」
「やりたいって言われたときに、よっしゃやれと」
「『漁師パパと一緒にやらんか』って言えるぐらいの環境にしとってあげたいなっていうのはある」

西上さんは小学校で特別授業を行ったり、SNSで情報発信したり、鳴門の一本釣りを広める活動にも取り組んでいます。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「知ってもらうことで、そこの魚を食べてみたいとか、知って僕もやりたい、みたいな人が増えてくるかもしれないし」

釣った魚を陸地近くに移すため戻ってきました。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「全然釣れんかった」

(鳴門町漁業協同組合・北山 靖之さん)
「向上心もあるし何より元気でなかなか真似できんような、若いのに尊敬しています」

そして、西上さんを見守る家族は…。

(妻・西上亜紀さん)
「毎日休みもなく働いてくれているんで、今日みたいに波が荒い日も行ってるんで、心配もあるんですけれど」
「すごい頑張ってくれてるなと思います」
「現役が長いんで漁師は。お義父さんも60歳ぐらいなので、あと20年はいけると思うので、頑張っていって欲しい」

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「だいぶ頑張らせるな」

この日、釣り上げたハマチは78キロ。

2025年の最高は、一日で720キロだといいます。

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「よう食いよったんですけどね、失敗ばっかりしてダメだったっすわ。道具が良く切れたんですよ」

(記者)
「明日への意気込みは」

(一本釣り漁師・西上大貴さん)
「明日はきょうより釣れるように、毎日そういうつもりで頑張りたいと思います」

一本釣りを受け継ぐ、若き漁師。

これからも鳴門の魚を釣りあげ、伝統の漁法を守り伝えていきます。

(10/22 18:18 四国放送)

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