『鯨法会』
金子みすゞさんの故郷、長門市仙崎では約450年続く伝統行事があります。それが、鯨法会(鯨回向)という法要です。鯨の命は昔はとても貴重で、「鯨一頭とれれば七浦うるおす」という言葉もあるほどです。そのように大切だった命ですが、仙崎ではその命をいただく有難さを忘れてはいけない、鯨の命をちゃんと供養し、感謝する法要を今も、なお続けています。母鯨のお腹に宿ったまま陸にあがり、この世に生まれることが出来なかった子鯨は、鯨墓に葬られています。みすゞさんが小さい頃からその光景を見つめながら育まれたこと、512編のいのちをみつめる眼差しの背景には、故郷仙崎の優しさ、厳しさ、慈悲深さがあるんですね。大切に刻まれる伝統文化です。
『花のたましい』
春はいろんなお花に癒される、元気をいただく季節。みすゞさんはその中でも、咲いているお花の姿だけではなく、散ってしまったお花さえも私たちを楽しませてくれる姿を忘れません。そしてそんな優しいお花たちは全て、そんなに優しいのだから、この世の向こうでみんなみんなまた生まれると、空の向こうに想像しています。自分に優しさ振りまいてくれる、相手の救われる姿を想う心、優しさと優しさがこだましています。
『月のひかり』
この詩は512編の中で唯一、場面「一」と「二」に分かれて構成されている長編です。「一」では人間たちが賑やかな街に、誰も月に目を向けない、月のさみしさを詠っていますが、「二」ではそんなさみしい月が、もっとさみしい裏町の子どもを見つけ、優しさ溢れる月のひかりを注ぐのです。もうなんとも言えない切なさと優しさがこの詩には溢れています。まるで、金子みすゞさんそのものなのです。私はこの詩が大好きです。
『転校生』
転校してくる方も、迎える方もドキドキしている、懐かしい思い出です。この詩でも、転校生に対して話かける言葉をどうしようか悩んでいますが、そのうちに転校生はちゃんと放課後、お友達が出来ていました。小さな心配事も、本人にとってとても大きなこと。子どもの頃はなおさらです。この時期、心の中のいろんな出来事、周りの大人もしっかり温かく見守ってあげたいですね。
『さくらの木』
おてんばな女の子。そしておとぎ話が大好きなみすゞさんらしい、花咲か爺さんの物語が見え隠れする内容です。4月生まれのみすゞさんは、さくらの木も大好きだったのでしょう、この詩からもよく伝わってきます。
『四月』
この詩は毎年4月を迎える頃に思い出す詩です。新しいスタートへのわくわく、新しいものを揃えるうれしさ、それが満開です。新たなスタートに不安や心配があっても、この詩を読むとそんな気持ちはふわっと元気に変わります。みすゞさんが、新しく始まるあなたの4月を応援していますよ。
『お魚の春』
海の中でも春が来た喜びは、人間と一緒。そんなこだまし合える春の「うれしい」が伝わってくる詩です。トビウオも登場しますが、山口県の海にもトビウオの姿、見ることが出来ますよね。そんな時、みすゞさんのこの詩を思い出して「飛び魚小父さん」だと思って見つめると、一気にみすゞワールドです♪
『赤い靴』
金子みすゞさんの春の詩の中でも、特に私が大好きな詩なんですが、春が来る喜びと、歩き始めたばかりの「坊や」が一歩、二歩、歩いては笑う、そのお母さんの喜びが春の喜びと重なる素敵な詩です。春が来た、という言葉だけでもなんだか嬉しくなる私たち。四季があるって、いいですね。
『仲なおり』
けんかをした女の子二人。でもげんげ(れんげ)の花を摘んでいたら、向こうに相手の女の子もいて、そのげんげの花が嬉しくて、つい微笑みます。その笑みにつられてこっちも笑う。すっかり、けんかした心は仲直りするんですね。お花は私たちの心をほぐしてくれる、やさしい存在。春はいろんなお花に癒される、うれしい季節です。
『このみち』
この卒業シーズンにお届けしたい詩です。金子みすゞさんが学校への道で出会ったものが登場していると言われている詩ですが、ひとりぼっちで立っている榎、蓮池にいる蛙、田んぼの案山子、その一人でいる存在を見逃さず、一緒に「このみち」を行こうと導いている内容です。私たちは決して一人で生きているわけではないですが、落ち込んだり悩んだり、そうした時には心がひとりぼっちになることがあります。そんな心に優しく寄り添ってくれる、そして「がんばろう」と思わせてくれる、そんな素敵な詩です。新たなスタートで、心細い思いがあったら、ぜひこの詩に触れてみてください。
『雛まつり』
桃の節句に合わせて。女の子にとって雛まつりは、とても華やかで嬉しいはずですが、豪華なひな人形ではないお家の女の子の、さみしさが伝わってくる一編です。みすゞさんは、華やかな裏のさみしさにもそっと眼差しを向けていて、物事の表と裏、明と暗を、ちゃんと全て掬い取ってくれている、そんな気がします。だから、みすゞさんの詩を読むと、心がホッとするのかもしれませんね。
『桃の花びら』
お花の咲かない場所に桃が自分の花びらを散らして、その場所に花を咲かせようとする様子。それを見たおてんとうさまが、そのやさしさに喜んで、日の光が更に強くなって温かくなります。すると、かげろうがゆらゆらとのぼるのです。そしてそのかげろうを、散ってしまった花びらの魂の姿に見立てています。
相手のために自分が犠牲になることを厭わないその桃の魂を、お日様が昇らせているんですね。素敵な素敵なみすゞさんの優しさがそこに溢れているように思います。おてんとうさまは、まるでみすゞさんそのものです。
『みんなを好きに』
かつてのローマ法王が涙したというこの詩。
放送では、今ちょうど湯本温泉で開催している「音信川うたあかり」イベントで金子みすゞ記念館学芸員の出張講座に参加したリスナーさんからのメッセージで、この詩の言葉の表現についていろいろ談義した様子をご紹介しました。
「みんな」という言葉が詩の中では「みいんな」になっていて、最後の「みいんな」だけは「みィんな」になっているのはなぜだろうという内容でした。
みすゞさんは、言葉の響きや目に飛び込む文字の印象にまでセンスをフルに活かしています。この詩にも、色づかいのセンスと言葉選び、素敵なみすゞさんらしさが満載です。ぜひ、詩集を手に取って味わっていただきたい1編です。